2024/11/26 (火) - ブログ

向山先生、工藤先生、菊池先生の《「叱り方」》研究

城東高校・徳島市立高校理数科
県立上位高校(城南・城ノ内・徳島北高)
受験專門塾
碩学ゼミナールの衣笠です。

向山先生、工藤先生、菊池先生の「叱り方」

理想的な「叱り方」を求めて、尊敬する3名の教育者の叱り方について調べ、まとめました。

まず、向山洋一先生についてです。向山先生の教育観は、衣笠および碩学ゼミナールの教育観の柱ともいえるものです。塾の講師を始めた頃、時間があると向山先生の著書を読み、その内容をノートに書き写し要旨をまとめていました。その過程で、向山先生の叱り方に込められた深い意味を学びました。

次に、横浜創英中学・高等学校の校長である工藤勇一先生です。工藤先生は、生徒の自律力を育む教育を実践されており、「自分で考え、判断し、行動する力」を伸ばすことで大きな成果を上げました。

その結果、学びの質が向上し、不登校やいじめが減少、地域からの絶大な信頼を得ています。工藤先生の教育の神髄を知るため、著書を多く読んで学びました。

最後に、NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」でも紹介された菊池省三先生です。菊池先生は、「ほめる」指導の名人として知られていますが、人間を育てるための「叱る」指導にも深い見識を持っています。特に、中村堂出版の著書『人間を育てる「叱る」指導』は、教育者にとって貴重な一冊です。

私が尊敬するこれら3名の教育者の叱り方を調べ、考察することで、「理想の叱り方」に少しでも近づきたいと思い、今回まとめるに至りました。

 

近年、教育現場や家庭において「叱り方」が見直され、「厳しく叱る」から「冷静に叱り、子どもの話をよく聞く」アプローチが注目されています。

この変化は、子どもの気持ちや行動に与える影響が研究や実践を通じて明らかになり、子どもの成長を支える指導方法として評価されているからです。

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菊池省三氏の視点: 自己肯定感を高める叱り方

菊池省三氏は、生徒の「自己肯定感」を育むことを重視し、叱ることを「価値語(考え方や行動をプラスの方向に導く言葉)を伝える機会」としています。

著書『人間を育てる 菊池道場流 叱る指導』では、「叱ることをほめることと対比させながら考えることが重要」と述べています。

たとえば、ある学校でのエピソードでは、授業開始時間に遅れてきた生徒に対し、菊池氏はただ叱るのではなく、「あなたが時間を守ることで、周りの人もあなたに信頼を寄せるようになる」と伝えました。

生徒は「自分が周りに与える影響」を意識し、翌日から早めに登校するようになったといいます。このように叱る理由を明確にし、改善方法を生徒自身と一緒に考えることで、生徒が自ら行動を見直すきっかけを作るのです。

菊池氏は、「叱った後には必ずポジティブな言葉を添えることで、生徒のやる気を引き出し、次への意欲を高めることが重要」と指摘しています。このアプローチは、生徒に「自分は叱られるだけの存在ではない」という安心感を与え、自己肯定感を育む効果があります。

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向山洋一氏の視点: 規律と信頼関係を両立する叱り方

向山洋一氏は、授業や学級運営における「厳しさ」と「規律」の重要性を強調しつつ、叱る際には明確なルールと一貫性を持つべきだと述べています。

著書『授業の原則十ヵ条』では、「指示や発問を短く簡潔に述べ、叱る際にも感情を抑え、理由をしっかり説明する」ことを推奨しています。
例えば、ある教室で授業中に私語が多かったとき、向山氏は「今、この時間はみんなが学ぶための大切な時間です」と全体に向けて静かに伝えた後、私語をしていた生徒には個別に「授業中の私語は、周囲の集中力を妨げてしまうことを自覚してほしい」と話しました。このように叱る対象を特定しつつ、個別対応で具体的な影響を伝えることで、生徒の納得感を得ることができます。

向山氏は、「叱ることは教師の権威を示すためのものではなく、生徒が学びやすい環境を維持するための方法である」と強調しています。また、叱った後には「これからの行動に期待している」といった激励の言葉を添えることを欠かさず、生徒との信頼関係を維持することを大切にしています。

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工藤勇一氏の視点: 自律を促す叱らない指導
工藤勇一氏は、「叱ること自体を減らし、生徒に考える時間と機会を与える」指導を重視しています。

著書『学校の「当たり前」をやめた。』では、「感情的に叱るのではなく、生徒自身が課題や問題点に気づき、自発的に行動を改善できる力を育てるべき」と提唱しています。

例えば、宿題を忘れた生徒に対しては、「宿題をやらなかったことで授業中にどんな問題が生じたと思う?」と問いかけ、まず生徒自身に考えさせます。

そのうえで「次回からどうすればよいか」を一緒に計画することで、生徒は「自分で考える力」と「行動を変える意欲」を養います。このようなアプローチは、生徒に責任感を持たせるだけでなく、教師からの信頼を感じさせる効果もあります。

工藤氏は、「叱るのではなく対話を通じて、生徒が自ら解決策を見つけられる環境をつくることが、将来的な成長を支える」と述べています。

この方法により、生徒は叱られたことを一時的な戒めとして終わらせるのではなく、自分の将来につながる学びとして活用できるのです。

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親が手本を示す必要性

叱る指導を成功させるためには、親や教師自身が模範となる行動を示すことが不可欠です。親がルールを守らなかったり感情的に怒ったりしてしまうと、子どもは「言われたこと」と「実際の行動」が一致していないと感じ、叱りの効果が薄れてしまいます。

菊池氏も、「価値語を伝えるためには、自らがその価値観を体現していることが大前提」と述べています。

たとえば、「忘れ物をしないこと」を子どもに求める際、親自身がしっかり準備を整える姿を見せることが重要です。

また、工藤氏が提案する「考える習慣」を促すためにも、親自身が失敗を学びの機会とし、それを冷静に対処する姿勢を示すことが効果的です。親や教師が手本を示すことで、子どもたちはより自然に良い行動を学び取ることができます。

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三者に共通する効果的な叱り方のポイント

1. 行動に焦点を当てる
生徒の人格を否定するのではなく、「どの行動がなぜ問題なのか」を具体的に説明する。

2. 冷静さを保つ
感情的に叱るのではなく、冷静に叱る理由と目的を伝える。

3. フォローアップを欠かさない
叱った後には「次はきっとできる」「期待している」などのポジティブな言葉を添え、生徒の自信を育む。

4. 生徒に考えさせる機会を与える
工藤氏のように、自ら問題を認識し、解決策を考える力を身につけさせる。

5. 一貫性のあるルールを守る
向山氏が提唱するように、ルールを明確にし、その基準に基づいて叱ることで信頼関係を築く。

6. 模範的な行動を示す
親や教師自身がルールや期待する行動を体現することで、叱る内容に説得力を持たせる。

 

 

少し長い【 まとめ 】
菊池省三氏、向山洋一氏、工藤勇一氏の叱り方に共通するのは、生徒の成長を促すために人格を否定せず、行動に焦点を当てた冷静かつ建設的な指導を行うことです。

叱ることは単なる注意や感情的な反応ではなく、子どもが自らの行動を振り返り、次にどうするべきかを考える機会として活用されるべきです。

そのためには、叱る際に「なぜそれが問題なのか」を明確に伝えること、感情を抑えて理性的に接すること、そして叱った後にはポジティブな言葉を添えて子どもの自信を回復させることが重要です。

また、叱る指導を効果的にするためには、親や教師が自ら模範を示す姿勢が欠かせません。

親がルールや期待する行動を体現していれば、子どもたちは自然とそれに倣い、親が伝えようとする価値観を受け入れやすくなります。

たとえば、「時間を守る大切さ」を子どもに教えたいならば、親自身が時間を厳守する姿を見せることが説得力を持ちます。

同様に、「落ち着いて対処すること」を教えたいならば、親が感情的に怒るのではなく冷静に対応する姿を見せることが効果的です。

このように、親や教師の行動そのものが子どもへの最大のメッセージとなります。

さらに、子ども一人ひとりの個性や背景に配慮しながら指導を行うことも重要です。

全員に同じ叱り方を適用するのではなく、子どもの特性や状況に応じて柔軟に対応することで、指導の効果をより高めることができます。

向山氏が強調する「ルールの明確化」と「一貫性」、工藤氏が提唱する「子どもに考えさせる機会の提供」、菊池氏の「価値語を伝える叱り

方」を組み合わせることで、叱る行為がより意義深いものとなるでしょう。

このような指導法を家庭や学校で一貫して取り入れることで、叱ることが単なる恐怖を与える行為ではなく、子ども自身が気づき、改善し、成長するためのプロセスとして活用されるようになります。

叱ることの目的は、子どもがより良い選択を自らできるようになる力を育むことです。

冷静で建設的な叱り方は、信頼関係を深めると同時に、子どもに安心感を与え、自信を持って前向きに成長する土台を築きます。

保護者や教師がこうした考え方を取り入れることで、子どもたちは単にミスを減らすだけでなく、自分で問題を解決し、未来への力をつけることができます。

そして、叱ること自体が子どもにとっての学びや成長の一助となり、親や教師との関係もより良いものになるでしょう。

叱り方を変えることは、子どもの成長だけでなく、親や教師自身の成長にもつながる重要なステップなのです。

 

碩学ゼミナール塾長・衣笠 経歴
城西中学・城北高校・立命館大学経済学部卒 / 保険毎日新聞に記者として入社 / 帰省後、県内大手進学塾にて本部長・教務部長・校舎長、香川7校舎統括責任者。家族(嫁、長女、長男、母)をこよなく愛する。
毎日一人ひとり全員とあいさつをした後、父のお仏壇に手を合わせるのが日課。趣味は読書と野球観戦。好きな食べ物は辛口カレーライス。
元認定教育コーチ・青少年育成協会元研究員・子育てに関しての母親
セミナーも手がける。